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個人金融資産は食い尽くされている

2003年1月13日

宇佐美 保

  昨年末の12月30日の朝日新聞で、丹羽宇一郎氏(98年4月、伊藤忠商事社長に就任するや、経営不振の関係会社を350社以上清算し、99年には約4000億円の不良債権を一気に処理するなど、業績回復に導いた)は、いま日本が何をすべきかを次のように語っています。

金庫が空っぽの国に金を出せと言っても、国債残高が増えるだけ。ここは1400兆円とされる個人資産の活用を考えるべきだ。個人が新たに株式や土地を買う場合に相続税を2年間だけ免除するとか、思い切った税制改革が必要だ。資産価値を上げ、不良債権の処理を進め、同時に微細技術やバイオなどの成長分野に投資していく」

「政府系金融機関や道路公団の関連を含め、なんらかの形で政府にぶら下がっている企業が5万社あるという。民間企業の活動を阻害する政府関連事業は大幅に縮小させるべきだ。国会議員や上司への説明で労力をすり減らしている政府の役人も、本当ならいまの半分で済む。もちろん、体を張ってしがらみ文化を断ち切ることができるリーダーの存在が前提だ」

 

 丹羽氏が、“1400兆円とされる個人資産の活用を考えるべきだ”と力説されても悲しいことに、私たちの資産は、もうすでに族議員などに食い尽くされているのです。

(丹羽氏ともあろう方が、その事実に気が付いておられないのでしょうか?)

 

「銀行と株(吉田春樹著:2001年9月20日:東洋経済新報発行)」の164頁に記載されている、みずほフィナンシャルグループの日本興業銀行調査部が、2000年末の日本の個人資産について作成した資料を、丹羽氏はご存知なのでしょうか?

 

個人資産1390兆円の内、民間預金が465兆円ですが、この内、民間企業に貸し出されているのは206兆円(44.3%)の僅かです。(その僅かな内の115兆円(56%)が問題の建設、不動産、卸・小売、金融保険に流れているのです)

そして、残りの一般企業に流れているであろう額は91兆円しかありません。

その他の187兆円(民間預金の40.2%)は、国・地方公共の債務に廻っているのです。

 

 もっと驚くことは、私たちの郵便貯金は255兆円ですが、この内の251兆円(98.4%)が、国・地方公共の債務に廻っているのです。

そして、その他、投資信託・年金・保険、更には直接的な方法による資産の流れを加えますと、私たちの資産は、問題業界へ115兆円(8.27%)、国・地方公共の債務に607兆円(43.7%)流れているのですが、これらのお金をいま私たちが解約して他の物を購入しようとしたらどうなるのですか?

 

私たち皆が、銀行や郵便局へ行って、問題業界へ融資されている分や、国・地方公共の債務に廻っているお金を引き出す事が出来ますか?

それらのお金は、全て赤字企業や、特殊法人たちに食い尽くされてしまって、銀行へは戻って来ないお金ではありませんか?

 

更に、その他、個人的に、あるいは投資信託・年金・保険を通して、株式に128兆円(9.2%)廻っていまして、これを売って他に廻すと、株が暴落するでしょう。

 

 ですから、民間金融機関、郵便局、そして個人的に、あるいは投資信託・年金・保険を通して、私たちが自由に出来ない、資産は問題業界へ115兆円(8.27%)、国・地方公共の債務に607兆円(43.7%)、株式に128兆円(9.2%)でありまして、これらを合計しますと850兆円(61.2%)となります。

 

そして、又、銀行に預けている残りの分(91兆円)を私たちが引き出すとどうなりますか?

今でも、貸し剥しにあえぐ中小企業へ廻るべきお金が無くなってしまうではありませんか!?

 

 但し、このみずほ銀行の調査のうち、残りの「その他449兆円(32%)」については、「海外資産、個人向け貸し出し等」と書かれているだけで、どういう性格なのかは私にはわかりません。

しかし、「個人向け貸し出し」は、私たちの住宅購入などに当てられているのでしたら、この分の金額も引き出せないでしょうし、「海外資産」なども、日本政府が当てにならないから「海外資産」を購入しているのかもしれませんから、この分の金額も自由にならないでしょう。

 

 このように見てきますと、今の状態では、私達は、銀行からも、郵便局からも、何処からも、お金は引き出せないのです。

(貯蓄に精を出す日本人の勤勉さを族議員達はしゃぶり尽くしているのです)

株も売れないのです。

 

 なのに、腐った政治家達は未だ、この事実に気が付いていないのか、気が付いていても知らない振りをしているのか?

相変わらず、“景気対策をしろ!”と喚いています。

そのお金は何処から出るのですか?

国債を発行するのですか?

誰が、国債を買うのですか?

私達は、買いませんよ。又、たとえ、私達に無断であろうとも、私達の資産ではもう買えませんよ。

腐った政治家達は、私達の資産を食い尽くしてしまっているのですから。

 

 そこで、腐った政治家達は、「今後発行する国債は日銀の資産である」とこじつけて、今では、自己資本に乏しく紙幣を発行する担保を持たない日銀に強引に紙幣を、ジャカジャカ印刷発行させてしまうのではと心配なのです。

そして、このとんでもない行為を、彼等は「調整インフレ」としらを切るのでしょう。

 

 こんな腐った政治家達の行為を許せますか?

こんな行為で景気は立ち直りますか?

ガタガタ金融機関と、9%の個人資産はしか投入されていず、残りは、銀行企業間の持ち合い株そして株価操作での利益をもくろむ外国機関投資家で支えられている株式市場の日本は資本主義国家ですか?(資本主義ではなくとも、正常な国家ですか?)

 

 いま大切なことは、「景気対策」ではない筈です。

小泉首相が当初絶叫していた「構造改革」ではありませんか!

 

丹羽氏は、小泉首相を「資質合格、実績落第」評し、又、「人を動かすのは対話だ。自分がどうしたいのかを直接、簡明に説明することだ。いま小泉首相が、テレビに出演してでも国の針路を国民に語らないのは理解に苦しむ」と朝日新聞に語っていますが、実績落第の原因や、国民に語らない原因は何処にあるのですか?

 

 その原因の多くはマスコミにあると私は思います。

第一、私がここに書きましたことを、小泉首相自らテレビを通じて国民に語ることが出来ますか?

若し、このような事を小泉首相が説明したら、国民は、信用の置けない今の日本の銀行や郵便局へと殺到して、預金の取り付け騒ぎが発生するのではありませんか?

 

 小泉首相は、“「構造改革」こそが最重点”と喚き続けていたのではありませんか!?

そして、その「構造改革最重点」の背景を、無知な私たち国民に説明するのがマスコミの役目ではありませんか?

 

 ところが逆に、マスコミは、街頭で無知な国民にインタビューして“構造改革よりも景気対策”の声をテレビから流し続けました。

その結果、国債は増発され、2003年度一般会計予算の国債依存度は44・6%と過去最悪になってしまったではありませんか!

 

その上、国民の郵便貯金を食い尽くす特殊法人の一翼である「住宅金融公庫」を廃止しようと小泉首相が企てれば“弱者である国民の味方である住宅金融公庫を廃止するとはなにごとか”と文句を言い、「郵政事業の民営化」を図れば“小泉首相は大蔵族だから、バカの一つ覚えのように「郵政事業の民営化」を口にしてるだけ”とまるで「郵政族」のよう、挙句の果ては「高速道路民営化」については、“高速道路は税金で建設し、通行料を無料化せよ”とさえ「道路族」顔負けの見解を報道し、彼らの勢力復活に力を貸しています。

 

(補足)

マスコミは、私が書いて来たことなどはとっくに紙面に記載していると言われるかもしれません。

例えば、昨年の8月4日の朝日新聞 経済ひと模様{どうする郵貯・簡保360兆円 郵政懇談会メンバーに聞く}には、次のような記事が載っていました。

 小泉首相の下で郵政民営化を検討している民間有識者の「郵政3事業の在り方について考える懇談会」(田中直毅座長)が、最終案発表をめざして本格的に議論を始める。焦点は360兆円にのぼる郵便貯金と簡易保険の財政・金融問題だ。懇談会のメンバーでこの問題に詳しい2人に課題と改革案を聞いた。

 ●財政資金源から脱却を――慶応大教授・池尾和人さん

 ――郵政民営化の焦点は何ですか。

 「郵貯・簡保資金360兆円の問題だ。かねて財政投融資の資金供給源となって、無駄な特殊法人を温存させていると批判を浴びてきた。ところが今や、政府全体が依存する状態だ。ここ5年ほどで財政事情が急速に悪化して大量に国債が発行され、その資金源となった。郵貯・簡保資金の8割強の300兆円が国と地方のファイナンスに利用されている。郵政改革を財政再建と切り離しては考えられない」

 ――郵貯・簡保だけの改革論や廃止論は現実的ではないと?

 「郵貯は一般個人が保有しやすいように国債の姿を変えたものだ。郵貯を小さくするには政府の巨大債務を小さくすることが前提となる。国内総生産(GDP)の1.4倍にものぼる政府の借金はすぐにどうにかなるものではなく、郵貯・簡保をすぐ大幅に縮小することは現実的には難しい」

 ――郵貯の預け入れ限度額1000万円を徐々に引き下げ、段階的に規模を縮小する案もあります。

 「限度額引き下げの議論は意味がない。郵貯の定額貯金を預金だと思うからそういう意見が出るが、実態は国債なのだから。1人当たりの国債の買い入れ限度額を設けろという議論が無意味なのと同じだ」

 ――改革はどこから手をつけたらいいと?

 「願望としての改革案はいくらでも語れるが、現実を直視すれば、日本の財政が直面している困難の大きさに、たじろがざるを得ない。まず郵政事業と政府との距離をできるだけ置くことだろう。財政破綻(はたん)したら郵政事業も終わりだというのでは困る。共倒れしないような仕組みが必要だ」

 ――それが民営化ですね。

 「民営化が一気にすべてを解決するわけではないが、段階的にやらざるをえないだろう。財政改善のめどがつくまで、第1段階である政府全額出資の特殊会社にして、将来の完全民営化に備えておくことも一案だ」

 「定額貯金を個人向けの貯蓄国債の販売に置き換え、貯金事業から徐々に撤退することも考えられる。そうすれば、自分のお金が国の借金に回っている現実がわかりやすくなる」

 ――郵政官僚は、不良債権で苦しむ民間銀行より郵貯の方がうまくいっている、と主張しています。

 「うまくいっていると言っても、実態は自己資本がほとんどなく多大な政府信用に依存している。政府信用とは潜在的に国民が負担を抱えているということ。今の貯金事業は、超低金利時代が終わり金利が1%上がれば利益が吹き飛んでしまうぐらいもろい構造だ」

 ――公社が巨大すぎるので、郵貯や簡保の地域分割も課題では?

 「分割した方が経営が効率的になるなら検討に値する。だが『民間への脅威があるから分割しろ』という考え方には賛成できない。むしろ民間の脅威になるような、競争促進策としての民営化をすべきだと思う」

 何人がこの記事を見たでしょうか?そして、何人がこの記事から問題点を的確に認識したでしょうか?

マスコミは、「事実を事実として伝えていたらよいのだ」と思われているようです。

もっと自分達の書いた記事が世の中を動かす力を持つような配慮、努力をして貰いたいものです。




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